「クルマの原体験 その2 雪道爆走 モンテカルロラリー」
フェラーリのホームページにカリフォルニアTでモンテカルロラリーのコースを走る、というのがある。モンテカルロラリーのコースからモナコの街までドライブする動画だ。
わたしは高校3年でクルマの免許を取った。
前に書いたとおり両親はわたしがこどもの頃から異常なほどクルマに興味を持っていたのを知っていたので高校3年の免許取得に異存はなかった。
この時、家のクルマはカローラのセダンになっていた。排気量が1100CCから1300CCなった以外は4速マニュアル、パワステなし、パワーウィンドウなし、チョークレバーあり、クロスプライタイヤ(バイアスタイヤ)だった。進歩といえばラジオは装備されていたことと、シートの一部がファブリックになっていたことだった。
話題はそれるが当時、パワーウィンドウがあこがれのオプションだった。標準装備されているのはクラウンやセドリックのような高級車だけ。パワーウィンドウは高価なオプションだった。
で、ふつうの手動ウィンドウ(レギュレータ式のウィンドウ)をパワーウィンドウにするキットが売られていた。
レギュレーターのハンドルを取り外しシャフト部にモーターを取り付けるキットだった。
クルマ好きマニアはこのキットを取り付けていた。他にもステンレスホイールリングやリアウィンドウルーバーなどの後付けキットが流行っていた。いまホイールリングなど知っている人は少ないのではないか。
はなしを高校3年にもどす。
卒業間近の冬、雪が降った。
わたしはクルマの免許を持つ悪友2人とともにシャーベット状になった河原のデコボコ道を目指した。
雪が降ったあとは滑る。しかしクルマは滑っても転ばない。バイクは滑れば転ぶ。
すばらしい! 滑っても転ばないなんて!
「走りにいくか!」
「モンテカルロだ」
「ウヒョー! モンテ!」
雪、滑る、クルマ、とくればモンテカルロラリーだった。
勇躍、我々悪童3人はそれぞれのクルマ(家クルマ)を郊外のある河川敷に乗り付けた。
三人が一台のクルマに乗り込み走り出す。シャーベット状の雪がかぶった河原の凸凹の半アスファルト道路を走る。
周囲にクルマや人はいない。スピードを上げる。
クルマが不安定に左右にブレ始める。強いかまぼこ断面のアスファルトにシャーベット雪。
ホイールハウスの中から、車体の下から、はね上げた雪と小石がゴーゴーバチバチと鳴り響く。
頭上の樹木からドサドサと雪が落ちてくる。
ワイパーを高速で動かしながらハンドルは右左に取られてクルマは4メートルほどの道幅の中で右から左へ、左から右へとはげしくフラつきながら疾走する。
タイヤがはね上げた水しぶきはクルマの車高より高く舞い上がる。サイドウィンドウのバイザーにはね返った水が、びゅーっ、とガラスとパッキンのすき間から噴水みたいに入ってきた。
「死んじまうよ〜。ガハハハ」
後席に乗っているわたしはシートベルトもなくクルマの中を転げ回る。このクルマは悪友の実家の工務店のライトバンで後席シートは折りたたみ式。シートベルトは2点式だった。ベルトははじめから締める気はない。
うしろの荷室に積んである土木工事用の工具やロープがはげしく上下する。
この先の路面は舗装が途切れて砂利道になっているのを3人は知っている。しかし誰もやめようとか速度を落とせなどと言わない。
「ぶっ壊れる〜っ」
と言いながらクルマは止まらない。