「クルマの原体験 その3 フェラーリでどんな運転をすればいい?」
舗装が途切れて砂利道に突入した。
いよいよサスペンションが底付きするくらいの上下動がはじまった。前輪が跳ね上がり、マフラーが地面をこする。つぎの瞬間、前輪が前のめりに突っ込んでボンネットの上までシャーベット雪が乗ってくる。
車体の下がドカン、ゴワン、とこすっているのがわかる。
シートベルトを締めていないので左手でアシストグリップを握って、右手で前席のシートをかかえる。
ハンドルを取られて路肩に突っ込みそうになる、あわててハンドルを切り直すと、今度は逆側の路肩に突進する。まともに走らない。
「ウヒョ〜」
「やべ〜 死んじまうよ〜」
実際には狂乱の時間は10分もなかった。
クルマが入れないどん詰まりのところまでクルマを走らせるとUターンした。Uターンする充分なスペースはないから雪まみれになりながら切り返した。
クルマは思ったほどこわれていない。ホイールキャップがひとつなくなっていただけだった。
「あんま こわれてねーぞ」
「今度はオレのクルマで行ってみよう」
引き返して、もう一人の悪友の家クルマ、サバンナのライトバンを走らせる。このサバンナのライトバンはホイールリングを飛ばして帰ってきた。
わたしのクルマは唯一自家用車だったため最後におとなしめに走った。
すでに2台のクルマが荒らした雪道は泥田にかわっていた。屋根の上まで泥はねがついていたが別にどうということはない。
なくなったホイールキャップとホイールリングは雪がなくなった数週間後に回収した。
あれほどおもしろい運転体験は以来一度もない。いや、あれは正常な運転行為ではないからほめられたものではない。が、一番おもしろいクルマ体験はなんですか、とたずねられたら、やはりあのドライブを思い出す。
F12を注文したが、どんな風に運転するかあまり考えていない。
ネット動画で検索されるフェラーリは爆音を轟かせている。外国の映像でもそうしたものが多い。
バイク好きはマフラーの交換し音の善し悪しにこだわるが、バイクを知らない人にとっては騒音でしかない。
フェラーリも同じ。フェラーリに興味がない人にとっては迷惑だろう。これは厳然たる事実だ。
日本の道路はクルマが多い。周囲にクルマがなく家もまばらな場所で思う存分エンジンを回せるところはあまりない。高速道路でもスピードは100キロしかだせない。実際には130キロくらいで流れている箇所もあるが、見つかれば捕まる。通常、速度超過は15キロがいいところだ。
トップギア シリーズ20でフェラーリF12を紹介したとき冒頭で、
「英国でフェラーリを楽しめる場所などあるのでしょうか?」、
という視聴者の疑問を紹介している。
そのあとの映像ではジェレミー・クラークソンが英国の素晴らしいカントリーロードをF12で疾走して見せ、
「英国でもフェラーリを楽しめる道はあります」、
と締めている。
F12をジャンプさせながら疾走した英国の道は、見晴らしがよく適度なカーブとアップダウンがつづく。前後にほとんどクルマがない交通量と歩行者や民家が見当たらない道路環境があった。
まことにうらやましい条件の道がロンドンからそれほど遠くないところにある。
(もっとも映像を見る限り完全に速度違反で疾走しているように見えるけれども…。)
F12が納車されたら、どう走ったらよいのか。
納車されるまでに考えておこう。
F12であの30年前のようにシャーベット雪の道を暴走したらおもしろいのだろうか?
大昔のクルマ体験を書いてきた。
小学5年生の時、河原ではじめてクルマを運転させてくれた母はすっかり年老いている。
あまり会う事もないがわたしの生活ぶりから、
「息子はやっぱりクルマが好きらしい」
と、思っているようだ。
母にフェラーリを買ったというつもりはない。
そもそも母はフェラーリという言葉すら知らないはずだ。