「徳大寺有恒氏のすすめる左足ブレーキ」
オートマチック車にも慣れたころ徳大寺有恒氏が、
「サンフランシスコでは女の人はオートマチック車を左足ブレーキで坂道発進させる」、
と本に書いていたことを思い出した。
そこで、わたしは営業車をクルマの通りのない路地に入れて左足ブレーキを練習することにした。
あまり深く考えもせず、左足でブレーキを踏む。
と、踏んだとたんにつんのめるようにブレーキがかかった。
あわてて左足で踏んでいるブレーキペダルをゆるめようとしたが体が言うことを聞かない。あわてているから頭で考えている事と足の動作が合わない。
ハンドルに頭をぶつけそうになりながら急停止したクルマのなかで自分で自分を笑ってしまった。
左足はクラッチを踏みこむ動作しか知らない。クラッチはスパッと踏み切るのがふつうだ。
「左足ブレーキ、怖〜っ」
ちなみにこの頃の営業車はまだABSはついていない。ブレーキは強く踏めば容易にロックした。
気を取り直して、もう一度。そろ〜りとブレーキペダルに左足をのせる。
慎重に1ミリずつ踏み込むつもりでブレーキをかけた。
「おぉ、上手い。その調子」
かなりスムーズに停まる事ができた。でもおっかなびっくり踏むから停止位置が思ったところより先に行ってしまう。
これじゃ信号の停止線を突っ切ってしまう。
4、5回練習したらかなり慣れた。時間にして10分足らずの練習でほぼ習得できた。
まぁ、左足ブレーキも使えるだろう、とそれ以後、営業車を運転するとき右足と左足を半々くらい使い分けるようにした。
数日するとすっかり左足ブレーキでふつうに走れるようになった。
はじめは左足をブレーキペダルにかけることで内股っぽい感じ気になった。
オートマチックの場合、左足はフットレストに置きっぱなし。
左足はなんの仕事もなく一日中、寝っころがって鼻ほじっているオヤジのようなものだ。
その左足が俄然、内股で働きだしたのだ。
二三日して慣れてくるとこの左足ブレーキが実にクルマをスムーズに走らせることに気づいた。
まず、カーブ侵入時にブレーキを残しタイヤグリップを安定させかつタイヤのばたつきを抑制するが、この時、左足ブレーキのリリースと右足のアクセルのタイミングを重ねるようにするとクルマの挙動が非常にスムーズになるのだ。
分解すると、
「ブレーキに応じたサスの動き」
↓
「中立に戻ろうとするサスの動き」
↓
「アクセルに応じたサスの動き」
から「サスの中立に戻ろうとする動き」を省略することができるのだ。
文字で表現するとなんのこともないのだが、左足ブレーキを習得することでそれまでのクルマの動く感覚が大きく変わったのだ。
「左足ブレーキ、おもしろい!」