「フェラーリF12 2日目」
さて、2日目。マニュアル類を持ってF12に乗り込む。
シャッターを開けるとF12のフロントノーズ部分に陽が当たる。
近くに立って見下ろすと大きな12気筒エンジンを納めたエンジンフードはフロントノーズに向かって強い傾斜で下がっている。
F12のフロントグリルの造形はサメのようだからシャッター中から現れた大きなサメがわたしのひざの当りに噛み付こうとしているように思える。
もそもそとカバンからF12のキーを取り出しドアの施錠を開ける。F12はスマートキーじゃないのだ。
ピッ、とごく普通の電子音が鳴りハザードランプが点滅して鍵が解除された。
キーをステアリングコラム横のキーシリンダーに差し込む。
「やっぱりクルマのキーは差し込まなきゃね」、
キーとキーシリンダー、金属どうし接触してこすれて動くこの手応えは良いと思う。
個人的にはドアはスマートキーで解除し、エンジンはキーを差し込むタイプが良い(そんなまだるっこしいキーを作るメーカーはないと思うけど)
さて、エンジン始動。
昨日F12を受け取った時、すでにエンジンの暖機が終わった状態だった。試乗した時もエンジンは暖まった状態で始動した。考えてみればF12の冷寒始動を行うのは今日が初めてなのだ。
え〜と、キーを回してと…インジケーターがすべて点灯した。
例のステアリング上に設けられた赤い円形の「ENGINE START」ボタンを押す。
クルルッ、とスターターの回る音がしたと思うと、
ドゥッ バァーン!
ものすごい音とともにエンジンが始動した。
正直に言う。おどろいた、というかビックリした。
「マジかょ この音」、
思わず口にでてしまう。
「マジかよ、この音」、
もう一回、言ってしまった、と同時に、笑ってしまった。
「なんなんだ、この音」、
一人F12の中でニヤついている。 いい歳して貧困なボキャブラリーで感想を言ってしまう自分が情けない。
「マジかよ。すごい音…」、
車庫の中には始動音のまま高いボリュームでエンジンが回り続けている。
「バォォォォーーーッ」 、
うるさいこと、うるさいこと。
狭い車庫の中でエンジン音が響き回っている。話し声も聞こえない程のボリュームだ。
タコメーターの回転数は2000rpm。
暖機はまだ済んでいないが、F12を車庫の外に出そうと思う。この狭い車庫内に排気ガスを充満させたくないのだ。
1速に入れてアクセルをあおりF12を動かす。
車庫の外に出したことでご近所にはかえってエンジン音が響くことになっただろう。乗っている身としては車庫の中の音圧から解放されて耳が楽になった。
時間にして90秒くらいだろうか、アイドリングが1500rpmくらいに下がった。
取説には走りながら暖機、とあるがやはりまだ走る気にならない。
まわりに人は見えないが家の中には居る筈だ。
「騒々しくてすみません」
走るルートは決めていない。主に街中を走行してギアチェンジとエンジン回転を上下させたいと思う。ちなみに今日はオートモードで走らせようと思う。初期のあたりがつくまではギアチェンジはお任せにしておくつもりなのだ。
そもそもまだわたしがF12に慣れていない。 まだ、ナビも操作していないし、メーター類の表示切り替えも覚えたい。シートヒーターもミラーも操作したいのだ。 それと車両感覚も身につけなければならない。あの歪んだバックモニターの映像では後退できないと思うのだ。
マニュアルの抜粋
「油温が65〜70℃以下ではエンジンを4000回転以下で走行するように」、と書かれている。
「信号待ちをしているときや、エンジンを止める前にアクセルを吹かさないでください。アクセルを吹かしたり、『ダブルクラッチ』のような操作は現在の車にはまったく必要ありません。このような操作をされると燃費が悪化し排気ガスの量も増加します」、と書かれている。