「F12 田んぼに落ちた記憶」
前回のつづき
「柿の木は折れやすいから気をつけな」、
とたん、ボキッと柿の木の枝が折れて田植えが終わったばかりの田んぼに転がり落ちた。
それほど高い枝から落ちたわけではない。怪我をする程のことはないのだが、落ちた場所は水田に向かって斜めになっている地面だった。落ちてそのまま田植えをしたばかりの水田にすべり落ちた。
服を脱がされてパンツ一丁のわたしが母の手を引かれて帰る。
母は怒っていない。わたしは泥だらけになった服をつめたビニール袋を持たされて笑っている。
「おかあちゃん、あたまがザラザラする」、
全身泥まみれなのだ。
「お母さんにお風呂に連れてってもらいな」、
と、ビニール袋を提供したおばあさんがわたし達を見送っている。
引っ越してから数年後に訪ねた時、おばあさんは亡くなった後だった。あばら家はなくなり雑草が生い茂っていた。ここにかつて家が建っていたとはわからないくらい雑草が周囲に馴染んでいたのがさびしかった。
暗くなり始めた道を歩くのも心細いので、100円パーキングにもどりF12を出す。料金は100円だった。
F12の車室内照明はなかなか上手いと思う。けして華美ではないが趣がある光り方だ。
まずドアのポケット下部にランプがありドアを開けた足下を照らす。
足下はブレーキペダルの上部にランプがありかなり明るくペダルを照らす。アクセル、ブレーキ、フットレストとも金属製で滑り止めゴムなどはインサートされていない。この金属ペダルがライトで明るく光る。
ルームランプも明るい。カーボンステアリングの表面は高光沢なのでルームランプの光りを受けて光る。
各ランプ色はいわゆる電球色で今風のLEDの白っぽい光りではない。
F12のエアコンはよく効くと思う。
くだんの金属製ダクトから風が出てくるのだが車室温度が低くなるとびゅーびゅーと勢いよく吹き出さずとも車室が冷える。ダクトからの吹き出し速度が緩やかでも車室全体がまんべんなく冷えるというのは理想だ。高級車でも意外と出来てないものがあるのだ。
100円パーキングを出てステアリングを大きく切るとF12のヘッドライトのAFSの光軸が風にそよぐ雑草をなめるように照らす。
そういえば、これほど暗くなってからF12を走らせるのは初めてだ。車庫に戻る頃は夜9時近くだろう。
この先数百メートルで行き止まりになる。ただその行き止まりの場所は今、自然公園のような小さな広場が出来て数台分の無料駐車場がある。 10年ぶり(おそらく10年くらい)久しぶりに走る道はF12の広い車幅では甚だ不自由に感じられる。今日はDCTはオートマチックモードに入れっぱなしだ。
帰宅する住民や自転車に乗った学生を狭い道のなかでやりすごしながら進む。ステアリングが早く、軽いのは大変助かる。
サスペンションのモードはバンピーモードにしてあるが柔らかくなったという実感はあまりない。
前回ここに来たときは二代目プリウスだったように記憶している。 低速時にはほとんどエンジンがかからないプリウスは歩行者、自転車と並走するような狭い道にはとても馴染む。ただ昨今はイヤホンしたまま自転車に乗る学生がいて怖い。
対向車が来るのがライトでわかる。アスファルトからはみ出して停車し対向車をやりすごす。狭い道で片側が水田、片側が山側の土手。
水田におちたらまずい。子供が田んぼにはまっても笑って済ませられるが、フェラーリが田んぼに落ちたらはなはだ恥ずかしい。