「クルマの広告の記憶 その4 クロモドラのフェラーリ512BB」
輸入車の広告の写真は拙かったと前回書いた。しかし輸入部品のそれはしっかりした写真が使われていたのだ。アルミホイール、いや正確にはマグネシウムホイールの広告だった。
当時は外国製部品の広告が多くて、タイヤ(ピレリ、ミシュラン、グッドイヤー…)、ホイール(ATS、カンパーニョロ、クロモドラ…)ショックアブソーバー(コニー、ビルシュタイン)ステアリング(ナルディ、モモ)、シート(レカロ)、マフラー(アンサー)、ライト(マーシャル、ボッシュ、シビエ)、ミラーやフォーン(警笛)にも輸入品があった。
そうした数ある輸入部品の広告の中でひときわ目をひいたのが前回、載せたクロモドラの広告だった。
赤い512BBのエンジンフードを開けて真上から撮影したもので折りたたみの大判広告だった。
スーパーカーブームの頃、512BBのフロントフード、エンジンフードを開け、横から撮影した写真を見た。当時のわたしはランボルギーニミウラのそれと同じく熱狂した。
「なんてカッコイイ開け方だ」、
以来、クルマのエンジンフードは前ヒンジこそ本物、と思い込んだ。
この頃、フェアレディZの31型が出てそのエンジンフードが後ろヒンジになっていて幻滅した。それはさておきこのクロモドラの広告、512BBを上から撮ったアングルが珍しい。
あの前ヒンジのフロントフードを上から見るとこんな風に見えるのか、そう思った。
できればリアのエンジンフードも開けてもらえると良いのだが、そうすると512BBのデザインの大半が失われてしまうからやめたのかもしれない。広告の主役は512BBではなくフロントフードに収められたスペアタイヤに装着されたクロモドラホイールなのだ。
単純な星型のデザインだけれどもランボルギーニのホイールがいかにもデザイナーがデザインした感じがするのに対して、このフェラーリの星形ホイールはデザインされ過ぎていない、大人の感じがした。ホイールのデザインはこのくらいの存在感の方が良い、そう思った。
クロモドラの広告はしばらくして白い512BBのバージョンになった。
これまで見たことのない白い512BBを真横から撮っている。特別に凝った演出のない写真で、512BBも微妙に水平が出ていないように見える。
でもわたしはとても惹きつけられた。
それはスーパーカーブームでは撮られたことのない「人と512BBの関わりが切り取られた写真」だからだ。
ヒゲを蓄え老境に近づいた紳士がジャケットを脱いで512BBを雑巾掛けしている。しかも服はジャケットを脱いだワイシャツ姿。スラックスはサスペンダーで吊っている。休日ではない、仕事の合間に愛車のフェラーリ512BBを洗っているのだ。
「自動車というのは子供と同じだよ。勉強するものもあれば、グレてしまうものもあってね」、という宣伝コピーが入っている。
イタリアのフェラーリオーナーはこんな人達だよ、写真がそう言っている気がする。「ブームで騒ぐようなものじゃない」、そう言っている気もする。
512BBのサイドビューの抑揚の綺麗なこと。なんてなめらかなデザインなんだ。暗い背景と黒々としたタイヤに白い車体が映える。308GTB(S)より512BBの方が伸びやかに見える。
これらの写真はクロモドラの本国から提供された宣材写真なのだろうか。
すでにスーパーカーブームは去って、わたしのクルマに対する興味もメカニズムや成り立ちなんぞの方に移って、フェラーラやランボルギーニにから離れていたが、このクロモドラの広告には強く引きつけられた。
いまクロモドラのホイールは日本では扱われることはなくなったようだ。