フェラーリのブログ

フェラーリに関わった顛末

「SL550とF12」

SL550(231前期型)が納車された当時のことを思い出しながら書いていますが、この前まで乗っていたフェラーリF12との比較もときより交えながら進めたいと思います。

550のエンジンは4663CC、V8ツインターボで435ps、71.4kgm。

エンジンは静か。Sクラスセダンに積まれているものとまったく同じ物。同エンジンのSクラスセダンには乗っていないからフィーリングに差があるのか分からない。

エンジンを始動した時の音は車外では、クォーッ、と低くすこしこもったようなアイドリング音がしている。バ行の腹に響くような低音ではないからあまり気に障らない。個人的にはこのクォーッというすこし金属的な音は好きだ。

この点、F12の始動時の爆裂音は対極的だ。なにせF12は始動した瞬間、周囲の人間、動物をビックリさせる音と圧力を発する(何度近所の老人とネコの肝をつぶさせたかわからない)。

550のエンジンは滑らかでどこにも振動や引っ掛かりを感じさせない。

なぜ大きな排気量にしたのか、なぜ多気筒なのか。

「それは余裕ある出力と振動のない滑らかさのためさ、ただ燃費は悪いけどね」、

そうメルセデスが言っているような気がする。

このなめらかさ、振動のなさは酷寒の朝の始動でも変わらない。この瞬間、零度以下のシリンダーとピストンは一気に200℃、300℃にさらされ、各部が熱変形し様々なきしみや音を発する。エンジン以外のシャーシやインテリアまで共振したりする。それが普通なのだ。しかしこのエンジンではそれをほとんど感じない。またメルセデスが言う。

「冷間始動といえども、そんなものを感じさせないように大排気量V8にしたんですよ」

F12はそうはいかない。暖まっていないエンジンで走り出そうものなら、

ウヮッウゥ、ウヮッウゥ、と鼻をならす。

「無粋なことをすんじゃねぇよ。オレはフェラーリだぞ」、

そう叱られているような気になる。

 

F12のギアボックスはDCTで、550はトルコンAT。スムーズさとクリープの有無で遣い勝手は550がすぐれる。550のクリープは力強くて扱いやすい。

わたしはクリープの時もトルクがあって多少の段差はなんなく乗り越える設定の方が安全だと思う。アクセルを踏まずブレーキペダルだけでクルマをコントロール出来るからだ。

F12のDCTはアイドリングではクリープがなくて、ほんのちょっとした段差もアクセルをあおらなければ乗り越えられない。だから微速で段差を乗り越えるような時、アクセルとブレーキの行き来があわただしい。まぁ左足ブレーキにすれば問題はないのだが。

SL550はシフトパドル付きだが、パドルはとても小さく使い勝手は良くない。もっとパドルを大きくしないとつけた意味がないと思う。

ただSL550のエンジンは6000rpm以上はレッドゾーン。ピックアップも特別良くはない。でもアイドリングから4000回転くらいまで圧倒的なトルクでどの回転数からでもクルマはよく加速する。感覚はスポーティではないが実際の動きは遅れが無くリニアそのものだ。したがって積極的にパドルシフトを操る必要はない。

トルコンATはセレクターでマニュアル、エコノミー、スポーツの3種類から選べる(現在の231後期型はこの設定ではない。後期型についてはいずれくわしく書こうと思う)。

エコノミーは2速発進で穏やかなシフトスケジュール。普通にアクセルを踏んでいると2000回転ちょっとでポンポンシフトアップしていく。

スポーツは1速発進である程度高回転まで引っ張る。このスポーツモードはなかなか秀逸で、アクセルの開度と速度から絶妙のシフトスケージュルを作る。

何度か箱根を飛ばしたが、スポーツモードにした時の550は普段のおとなしさはどこへやら、クォーンとすこし金属がこすれるような独特のエンジン音で5500rpm手前までギアチェンジせず、強力なエンジンブレーキも効かせる設定になる。この賢さ(というか聡さ)にはいたく感心した。