フェラーリ試乗させてくださいの巻5「フェラーリF12ベルリネッタ試乗」
458イタリアにつづいてF12エンジンに試乗する。
セールスマン氏がエンジンをかける。
「ドッバン! ブォーォーォー」
始動した時の音は458よりもずっと大きい。
ほとんど爆音。特に始動した瞬間が強烈だ。
すでにエンジンは暖まっていたのでクランキング後一瞬で始動したが、正直言ってビックリした。
巨大なエンジンが怒り狂っているように思える。
スタイルは458の方が非常識だけどエンジンはF12の方がよほど非常識だ。
このエンジン音を聞いて、F12に乗るという事が何かすごい事のような気がしてきた。
考えてみれば今まで6リッターのクルマなんか乗ったことがなかったなぁ。
エンジン始動だけでF12に圧倒されつつ試乗が始まった。
エンジン音は車内で聞くとそれほど大きくない。アイドリングから3000回転くらいまで腹に響くような排気音が聞こえる。車外の方が音が大きく聞こえるようだ。
458で特徴的だった視界はF12ではごく普通の視界になる。大きく広いフロントフードの上端が少し見える。シートの高さによってはもっと見えるだろう。
458は直前の路面が手が届くような位置に見えたがF12ではそれはない。F12で見える路面は4mくらい先、小型車一台分前の路面になる感じだ。
交差点でハンドルを大きく切ると重量感のあるフロントフードがグイ〜ンとドライバ−の前で回頭する。BMWのZ4に似た感覚がする。別体のフロント部が動くような感覚。458はジェットコースターでF12はフォークリフトのようだ。ちょっと大げさな表現か…。
セールスマン氏はフェラーリの良さを感じてほしいと、高回転でエンジンを回す事を勧める。しかし周りは一般の車両も走っている。フェラーリの良い音がする回転数にする機会はほとんどない。自分で自由に乗り回せばそうした機会もあるのだろうが、この試乗コースでは無理だ。セールスマン氏はフェラーリに乗り馴れている。わたしは生涯初のフェラーリだ。
試乗はいつも半分以上、上の空だ。高価格のクルマほどそうだ。自分の肝っ玉の小ささがわかる。
試乗はあっと言う間に終わった。
「すごいクルマだ」という印象が残る。「エンジンが」とか、「シャーシが」とか、そういった部分ごとの評価ではなく、クルマ全体から発せられるものがすごいという印象。
ディーラーの車庫にF12を戻しながらセールスマン氏にF12の燃費を聞く、
「リッター4、5ってところでしょうね」
「りったーよん、ご…」
そんなもんだろうと思って聞いたが、予想通りだった。わたしはエコランが好きで現行プリウスを一般道でリッター20Km走らせる。地形の起伏、信号のタイミング、前車との車間距離、色々な要素を使って最小限度のアクセル開度で前に進める。アクセルペダルとくつの間に虫がいてもつぶれないだろうと思うくらいソフトにゆっくりとアクセルを踏む。
リッター4、5Km…。プリウスの4から5倍食うのか…。しかもハイオク…。
「そんなもんだろう」
そんなもんだろうと思ってビビらないよう自分に言い聞かせる。
ディーラーにもどってふたたびセールスマン氏の話しを聞く。
F12も458もその他の車種もフリーメンテナンス化が進んでいるという。特にトランスミッションの耐久性は飛躍的に伸びたそうな。
フェラーリのミッションのオーバーホールにすごいお金がかかる、とフェラーリオーナーの方々がブログに書かれているが、セールスマン氏の話しを聞いてあらためて驚いた。2〜3万キロでオーバーホール300万円。あらためてホントだったのね、と絶句。F12もそうだと言われたら、購入計画は即座になくなるところだった。
458イタリアとF12には試乗した結果、458は候補から落ちた。458イタリアはスーパーカーそのものだった。道行く人すべてが一目で、スーパーカーというか、その手のクルマだと見抜くのがわかる。
クルマ自体はすばらしい。けれどわたしはスーパーカー然としたクルマは乗りたくない。F12はその点、かなり普通な感じが漂うデザインである。
もっともデザインはおとなしいがエンジンはかなりとんでもない代物のよう思える。