「フェラーリF12 berlinetta納車さる! その9 フェラーリは疲れる」
「ん…?」、
ウィンドウを開けっ放しにしていた。やっぱり今日は勝手が違う。 やれやれ、どうせなら…と、リアハッチを開けてラゲッジルームを確認することにした。
え〜と、リアハッチを開けるにはたしか…このあたりのボタンを押す…とセールスマン氏は、ドアハンドルの根元あたりにあるボタンを押していた筈だ。
ほぼ記憶通りのところにトランクリッドのマークが描かれたボタンがあった。
ボタンの形はグローブボックスのボタンを同じ形状だ。
ベコッという音が後方からしてロックが外れた。F12はハッチバック形式だからトランクリッドはない。リアハッチが開けばそれはそのまま車室が外部に解放される。
ドアを開けて出るとズボンの裾から熱気が上がってふくらはぎが暖まるのがわかる。
ピキッ、チッチ、キンッ、
とF12の車体から冷えていく熱変形の音が聞こえる。
リアハッチを全開にする。ダンパーが効いていて開けるのに力はいらない。背の低い女の人は全開にすると手が届かないかもしれない。
ラゲッジには付属で付くボディカバーが納まっている。真っ赤なボディカバーだ。大きいのでラゲッジルームの半分をふさいでいる。そのうち家に持ち帰ろう。そういえば今まで買ったクルマでボディカバーが付属してきたことはなかった。
ウィンドウを閉めて、キーを操作してドアロックする。いわゆるスマートキー機能はない。キーについたスイッチでドアの施錠をする。スマートキーになれると面倒な気がするが不満を言うつもりはない。
車庫の外からF12を振り返る。
陽の当たったフロントエンドだけが強調されて見える。大きなフロントグリルの造形がサメのように見える。
自分のクルマを遠くから見た事がない。
朝夕の乗り降りはクルマの一部しか見ない。クルマのまわりを一周まわって眺めるなんてことは日常しない。パッと乗りこみ、降りたら振り返りもせず歩き去る。
いつだったか郊外のショッピングモールの混み合う駐車所にクルマを停めて夜遅くに戻った。まわりに停まっていたクルマは無くなって自分のクルマだけ取り残されている。水銀灯の直下で陰影が際立つ自分のクルマを遠くから眺め自分のクルマのデザインを再発見した。ずいぶん長く乗り回した筈なのに、自分のクルマをよく見ていなかったのだ。
似た経験を持つ人は多いのではないか。
F12がこれからどんな風に見えてくるのか気がかりだ。それと言うのもF12は撮影するアングルやレンズの画角によって印象が変わるデザインだと思うからだ。F12の様々な画像が出回っているが、かなり印象が変わる。458はそんな感じはしない。
今日は疲れた。 家に帰ってフェラーリの取扱説明書を読むことにしよう。