「クルマにひそむ狂気について スピードリミッター」
クルマが人を狂気に誘うというおはなしのつづき。
遠方の顧客を訪ねた。夕方、明るいうちに商談が終わり帰途についた。会社に帰り着くのはまだ何時間もかかる。なるべく明るいうちに距離をかせぎたいと思い高い速度で高速道路を走行した。交通量はそれほど多くない。その高速道路で捕まらないと思われる速度超過を維持し、追い越し車線と走行車線を行き来しながら走っていた。
長距離をスムーズに走ろうとする場合、警察に取り締まられない上限の速度超過を維持しスピードの上下を可能な限り無くす、これが疲れず事故を起こさず距離を稼ぐこつだ。一時的にスピードを上げて前車を追い抜くことはほとんど意味がない。前車の追い抜きをするスピードアップはドライバーの神経をすり減らすだけだ。
追い越し車線を走っていると、後方から距離を詰めてくるクルマをバックミラーで発見した。
もう一台抜いたら走行車線に戻ろう、そう思った。後方から来るそのクルマはわたしよりかなり早いスピードに見える。私の左前方のエルフを抜いてから走行車線に戻ろう、迫ってくるそのクルマはすこしアクセルを緩める必要があるかも知れないが、わたしもエルフを抜きかかっている。エルフの追い越しをあきらめて後方から迫るクルマに追い越し車線をゆずるならば、エルフの後方に向かって強いブレーキをかけながら車線変更する必要がある。これはかなり危険だ。追い越し車線を突進してくるそのクルマにはアクセルを緩めてもらうしかない。
エルフを抜き、走行車線に入って、右のドアミラーを見ると迫り来るクルマがない。タイミング的にはほどなく右ミラーに大写しになり私のクルマを追い抜くはずだ。 おかしいな、と思ったとたん、左の路肩を砂ぼこりを巻き上げて追い越していくクルマを見た。
速度差が大きい。あのクルマだ。
わたしがエルフを抜き走行車線に入るタイミングがもどかしいとおもったのだろう。そのクルマは追い越し車線から走行車線をまたぎ、路肩に侵入してわたしとエルフを抜いたのだ。
巻き上げられた砂ぼこりがわたしのクルマに当ってチリチリ、ピンピンと音を立てている。 路肩を突進するそのクルマはあっというまに視界から消え去った。
「やり過ぎだ」、
そう思った。
路肩走行のままわたしの前を行く大型トラックを抜いて一瞬で見えなくなった。速度差は5、60km/h以上あるだろう。わたしのクルマも120km/hは出ている。おそらくスピードリミッターが効くところまで出しているのかも知れない。
あれほど飛ばすクルマはそういない。
大昔の話しであるがベストカーガイド誌だったかで、スピード超過車の写真を掲載していたことがあった。夜間の高速道路を180km/hとかで飛ばすクルマをストロボ撮影したページだ。ホントにその速度が出ていたかは知らないけれども。
すでに国産車の2リッター超のターボ車などが200馬力以上を実現していたからスピートリミッターが実際に作動するクルマはずいぶん発売されていた。
それにしても、いくぶん上りこう配のこの区間であれほどの速度を出すのは高出力車でなければ無理だ。あのドライバーもそれが可能な高出力車だから、遅いクルマを強引に抜いて高速を維持しようとしたのだろう。
数分後に前が詰まって時速4、50キロに落ちた、この区間で渋滞するはずはない、と思っていると前のクルマが車線変更する。見ると路面になにやら散乱している。事故じゃないか。前方のクルマが右へ左へ蛇行して落下物を避けている。
「事故ならばあのクルマが原因の事故ではないか」、
そんな予感がした。
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